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メッセージ
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ココヘリ物語

ご挨拶

こんにちは。
ココヘリ&ジローの運営会社代表を務める、久我一総と申します。
お陰様で、2024年7月時点のグループ会員数は17万人を突破し、国内最大級のサービスに成長しました。会員、提携民間ヘリ会社、民間捜索・救助機関、全国の山岳団体、警察・消防、社員、株主のみなさまのご支援に心より感謝申し上げます。
これまで、私は会社の代表者として、自分の考えを文章にして発信することはありませんでした。何度も「やらねば」とは思いながら、今日まで実行しなかったのは、きっと私は世の中の反応が怖かったのだと思います。
しかし、徐々にサービスが世の中へ広まるにつれ、「自分の考え方やサービスの歴史を自らの言葉で発信する必要性がある」と感じるようになりました。
数日前に一念発起し、出張先のホテルや飛行機の中、自宅のリビングで一気に書き上げました。
ココヘリ誕生から現在まで。この「物語」をご覧いただければ、きっとココヘリの進化と、その時々の判断の背景が浮かび上がってくると思います。

第一章

何よりも391人の「開拓者」たちへ感謝

冒頭、グループ会員数17万人超と申し上げましたが、ココヘリの初年度会員数はなんと僅か391人でした。 当時は廃校の教室を事務所として借りており、およそ1日に1名の入会者宛に発信機を自ら封入して投函していました。なつかしいですね。
さて、この391人、かなり無謀な方たちです。断言しますが、とんだ冒険野郎たちです。なにしろ、歴史も資金も実績も何も無いベンチャー企業が、「発信機を貸し出してヘリで見つけます」と謳っているわけです。怪しさ150%です。絶対にカード決済してはダメなやつです。しかし、そのサービスに果敢にも入会するわけですよ、この391人は。いつかお会いして当時の心境を教えていただきたいです。
「いったい、その勇気はどこで手に入れたのですか?」と。
でも、この391人がいたからこそ、ココヘリは次の年を迎えることができ、それがまた次の1年に繋がり、現在があります。ですので、この場をお借りして、改めて感謝を申し上げます。391人の開拓者のみなさま、本当にありがとうございます。
ココヘリは今も元気です。
391名からはじまったココヘリ。今では434倍の仲間に。

第二章

ココヘリの生みの親=お客様の無茶な要望

ココヘリという仕組みはどういった経緯で誕生したのか。遡ること2014年1月。発信機(1万円)と受信機(2万円)を「ヒトココ」=(ヒトがココに居る)と名付けて発売しました。主に各種山岳団体の会員の方や警察・消防などの山岳救助隊にご活用いただきました。ただ、なにしろマニアックな機器なので、数はそんなに出ていません。年間で1,000台程度でしょうか。それでも、2015年の終わりに「何か改善点はありませんか?」と、100名ほどのユーザーへアンケート調査を実施したところ、彼らの回答からはっきりと「2つの要望」が浮かび上がってきました。

・要望①:発信機を無料にして欲しい。絶対普及する。
・要望②:早期発見のために民間ヘリを飛ばして欲しい。

要は「発信機を無料で配って、さらにヘリを飛ばせ」ということですから、まあ、割と無茶苦茶なリクエストなわけです。最初は「それは無理でしょ」と思ったものの、「どうにか実現できないか?」と、食事中はもちろん、風呂やトイレでも、とにかく知恵を絞りました。
そんなある日、「発信機を差し上げることはできないが、貸し出すことはできる。(海外旅行で借りるWi-Fi機器と同様に)」と気が付きました。そうすれば、結果的に登山者は「初期投資の1万円を払わずに発信機を持つ」ことが可能になります。更にもう一つのハードル=ヘリを飛ばす、についても、自社保有ではなく、「遭難者を見つける」というミッションに共感してくれる民間ヘリ会社と提携することで解決できることに気が付きました。「何とかなりそうだぞ。」
好日山荘を退職後、「山に恩返しを。」と当社に入社してくれた八木澤(現AUTHENTIC JAPAN株式会社 専務取締役)と一緒に、無我夢中でサービス開始に向けて動き出しました。

第三章

年会費は数万円? 普及のための価格設定

こうして「発信機を貸与して、ヘリで探す」というサービス提供の見通しが立ったわけですが、次は「せめて年会費をもらいたいが、ではいくらが妥当なのか?」という疑問が生まれます。「ヘリも飛ばすのだから、当然、数万円の年会費にすべきでは」と思いましたが、「誰もが利用できる価格設定」でないと会員は増えない=早期発見の仕組みが日本に拡がらないわけで、結局山岳エリアにおける行方不明者捜索の現状(行方不明者を目視や人海戦術、目撃者情報などを頼りに探す)を変えることができません。
さあ、困りました。普及のためには年会費を低く設定しなければ。では、「一体いくらまで安くできるのか?」を探る必要があります。そこで、警察庁が毎年発表している山岳遭難事故に関する統計データを参照したところ、登人口における「遭難事故発生率」が見えてきました。そして、「浅く広く普及すれば、登山者に必要なサービスを安価に提供できる」という確信を得ることができました。
そして2016年3月、「1日10円=年間3,650円」という年会費で、前代未聞のサービス=「会員制捜索ヘリサービス ココヘリ」が誕生したのです!
「誕生したのです!」と勢いよく表現しましたが、実はユーザーの要望を受け「仕方なく」始まったサービスだったとは、とても人に言えません。
真実だけに、どうか「内緒」でお願いします。

サービス開始時の広告。ロゴの案はパワーポイントで作成。

第四章

初めてのココヘリ出動事案が発生

会員数がゆっくりと(それはもう、ゆっくりと)増加し、1,000名を超えた2017年春、ついに最初の遭難事故が発生しました。何度も繰り返した訓練を通じて遭難者発見に自信があったとはいえ、実際の事故に直面し、「訓練通り、本当に見つけられるのか?」「会員は生存しているのか?」など様々なことが頭をめぐり、私の体と頭は極度の緊張に支配されていたのを覚えています。
とにかく夢中でヘリ捜索チームへの指示、警察やご家族との情報共有に努めました。そして捜索ヘリが現場山域に侵入して間もなく「電波を受信!」の一報が。続いて「距離1,270m。550m、170m、120m」と遭難者が持つ発信機との距離が小さくなっていきます。最終的に「この場所」と絞りこみ、その座標情報(北緯と東経)を警察に共有しました。
その座標を聴いた警察の方の反応は「こんな場所にいるはずがない。登山ルートから外れた捜索想定外の場所」というものでしたが、「電波は嘘をつきません。とにかく、そこへ救助隊を派遣してください」と要請し、結果的にその場所で遭難者が発見されたのでした。
残念なことに、その会員は滑落による外傷で既に亡くなっておられました。一方で、ココヘリの電波が無ければ捜索対象にすらならなかった場所からご遺体がご家族のもとへ帰ることができました。この日、改めて私は「必ずココヘリを日本の登山界に普及させる」と誓ったのでした。

第五章

ご家族、公的機関に加えて「第3の存在」に

「夫が帰宅しない」、「娘の職場から欠勤連絡が来た」、「下山連絡が無い」。登山者のご家族が「遭難」を疑い始めるきっかけは様々です。入口がどうであれ、まずご家族は「何をしたらいいのか?誰に相談したらよいのか?」とパニックになります。当然です。普通の日本人は、今までに家族が遭難した経験など一度も無いわけですから。
結果的に警察への通報が遅れ、貴重な時間をロスしてしまう。また、「警察へ相談すること=遭難の事実を認めること」であり、ご家族が無意識に「きっと大丈夫。」と通報に踏み切れないことも。いわゆる「正常性バイアス」ですね。
ココヘリ&ジロー会員のご家族は、「不安になったら、まずはコールセンターへ。」
24時間365日営業の「緊急コールセンター」に相談することができます。受電したオペレーターはご相談内容を伺ってから、社内へ展開します。その後、捜索チームがご家族へ折り返しのお電話をかけることで、ご家族とココヘリ、そして警察・消防による対応がスタートするのです。
これまで、遭難事故発生時には、ご家族と公的機関(警察・消防)の2者間で対応をしていました。ココヘリは、①ご家族、②公的機関に加えて「第3の存在」としての役割を果たしています。目指すは登山界の※スターバックスです。
※みんな大好きスターバックスが世界中に拡がった秘密は、①家庭、②職場に加えて「第3の居場所」を世の中に提供したことにあると言われています。

第六章

ココヘリに通報した後はどうなる?

専門捜索チームがご家族へ折り返しの電話をかけ、相談内容や過去の事故対応経験から、「これは事故が発生している可能性が高い」と判断した場合はご家族に警察への通報を促します。公的救助機関は、本人・ご家族からの通報がトリガーとなって初めて調査・捜索・救助活動が始まります。(ココヘリ含め、民間企業や団体から通報・捜索依頼を受けても警察は動くことができません。)
実は警察への通報を躊躇するご家族もいらっしゃいます。「なにか大事になるのではないか」「警察に迷惑をかけてしまうのではないか」と。そんな時は、「結果的に何もなくて無事に下山されたら、なによりです。むしろ本当に事故が起きている場合のために、念のため通報しましょう。」とお伝えします。
ご家族が「110番」をかけると、お住いのエリアの警察署(例:神奈川県青葉警察署)に繋がります。警察官の方が状況把握のためにご自宅に来てくださったりします。その後、県警本部(例:神奈川県警本部)に情報が伝達され、当該山域の県警の本部(例:山梨県警本部)へ伝わり、そこから更に所轄の警察署(例:日下部警察署)へ連絡されます。ココヘリはご家族に110番通報をお願いした後、先回りして所轄警察署へ連絡をとります。
そして、「もうすぐ山梨県警本部から連絡が来ると思いますが、神奈川県にお住いの山田太郎さんの遭難の件で、奥様からご相談があります。なお、山田さまが持っているココヘリIDの発信機はxxxです。山岳救助隊および航空隊への共有をお願いします。また、ココヘリ民間ヘリの出動については、決定次第共有いたします。」
といった内容の電話をおかけしています。
物理的に可能な限り早く、正確に。ケガの痛みや体の不調を耐え忍んで、山の中で救助を待つココヘリ会員の姿をイメージして対応しています。なぜなら、そのココヘリ会員は、誰かの「夫」であり、「母親」であり、「息子」なのですから。

第七章

絶対に「行方不明者」になってはいけない

登山者にとって、そして家族にとって一番恐ろしいことは「行方不明者」になることです。「行方不明者になると大変」という事は皆さんもよく耳にされると思います。では、何が「恐ろしい」のでしょうか。家族に捜索費用の負担がかかるから?それならば山岳保険でそのリスクカバーできます。実は「捜索費用」は、残された家族が被る経済的負担のほんの一部、すなわち「氷山の一角」なのです。
そして、最も恐ろしいリスクは「あなたが行方不明者になったら、7年間は死亡認定がおりない。」という事実です。「死亡認定」がおりなければ、①ご家族は7年間もの間、生命保険を受け取れない(しかも、その7年間も保険料を払い続ける必要あり。)
②住宅ローン団信の免除が受けられない(これも7年間ローンを返済し続ける必要があり、しかも7年後に目減りした残債分だけしか免除されない。)
③退職金が支払われない(勤務先の会社から解雇されてしまう:無断欠勤扱い)どうでしょう。ざっと計算しても数千万円、もしくは億単位の経済的損失を、ある日突然、家族が直面することになるわけです。当然、ご家族はその事実を、「その時」が来るまで知ることはありません。

残された家族が辿るその後の道のりは、更に残酷です。夫・父親を失った家族は、生活費はもちろん生命保険や住宅ローンの支払いに追われます。山岳保険の捜索費用上限を使い切った後は、親戚からお金を集めてでも捜索を継続するかもしれません。そのお金も使い切った後、ついに家族は休日に山に入り、自ら捜索をする他なくなります。登山をしたこともない家族が、捜索を終えて疲れ切った体で下山する時、最後には「恨み」に似た感情が芽生えます。
お父さん、なんで私たちをこんな目に逢わせるの?」と。

第八章

ココヘリ事故対応の実例

サービス開始以来、通報・ご相談の入電が1,500件を超え、そのうち、ココヘリが公的機関と連携して対応した事案は164件に上ります。10件の通報があれば、およそ1件が実際の捜索・救助事案に発展します。
これまでココヘリは事故対応の「概要」をホームページに掲載していましたが、その「詳細」については殆ど発信をしてきませんでした。また、ココヘリ電波を活用して発見・救助された事案について、テレビや新聞のニュースで「ココヘリ」の名称が表に出ることはありません。当然ながら、公的救助機関のメディア会見において、一私企業が提供するサービスについて言及しにくい事が背景にあります。
ココヘリは黒子に徹し、ご家族と公的救助機関のサポートをさせていただく。「いつか世の中に価値が伝わる時が来る。」と信じて。いわゆる「ザ・昭和」の世界観ですね。(私は昭和53年生まれ。生粋のファミコン・ミニ四駆・ジャンプ世代です。)
しかし、2024年になって考えが変わりました。時代は令和に代わって早や6年目。ちゃんと発信していこう。登山計画書の重要性や滑落・気象遭難の恐ろしさは勿論、無事を祈る家族や知人の気持ちを知ってもらおう。また、今まで明かさなかったココヘリの「裏側」を知っていただくことで「安心の輪」が更に拡がることを願って。

ココヘリ 事故対応レポート

上記リンク先に、2024年1月以降に発生した事故対応レポートを掲載しました。なかでも必見は「事故対応のやり取り(LINE WORKS)」です。数年前の事例ではありますが、公的救助機関がメディア会見で「ココヘリ」に言及してくださった数少ないケースのため、事故対応の詳細を公開しています。(事故の特定につながる情報:日時・山域・公的機関名・その他個人情報に関する記載は黒塗りしています。予めご了承ください。)

必見!捜索対応のやり取り(LINE WORKS)

いかがでしょうか?もしかしたら、皆さんがイメージしていたよりも①ずっと初期の段階から、②多くの社員・関係者が、③あらゆる手段を駆使し、④しつこく、諦めず(※これが一番大事)、会員の捜索・救助に取り組む「ココヘリ」の姿が浮かび上がってきたのではないでしょうか。
私が社員の皆さんに繰り返し伝えているメッセージがあります。
「会員数と事故件数が増えて、良い意味での『慣れ』は必要。=事故対応業務の効率化や組織化は望ましい。しかし、我々にとっては『沢山の事故のひとつ』であっても、会員とご家族にとっては『一回しか無い事故。』その意味では決して『慣れる』ことは許されない。」と。
その会員は誰かの大切な人。そしてその背後には沢山のご家族・知人の人生が繋がっています。生きてご帰宅いただくために。誰も「行方不明者」にさせないために。

ココヘリ公式ムービー
「いってきます。」と「おかえりなさい。」の間に。

第九章

電話の向こうの「声」

2021年のことでした。ある会員の奥様からコールセンターへご相談が来ました。観光に出かけた旦那様が帰宅されていない、と。山あいにある観光地で、「ふと、気が向いて」少し山の中を散策に入られたとのこと。その後、旦那様からの連絡が途絶えてしまいました。
山に入る予定は無い観光目的だったため、当然ながらココヘリ発信機は携行されていませんでした。とにかく、民間ヘリを出動させ、電波ではなく目視での捜索を実施しましたが、結果は出ません。あっという間に当時のココヘリが提供していた「3フライト=約9時間」の捜索が終わってしまいました。
過去にもココヘリの電波で発見に至らなかったケースが数件あります。①発信機の携行忘れ(ご自宅で発信機が見つかるケース)、②発信機の充電忘れや電源OFF(初期の発信機には電源のON/OFFボタンがあった)、③湖に水没されていたケース(ココヘリやスマホも含めあらゆる電波は水中では減衰)などが主な原因です。
そんな時、当時は、ご家族にココヘリの捜索サポートの終了をお伝えし、「何か山岳保険には加入されていますか?」とお尋ねしたうえで、民間の捜索組織をご紹介していました。(例:LiSSなど遭難者の徹底的なプロファイリングによる捜索を実施する組織)
ココヘリサポートの終了をお伝えする際は、どのご家族に対しても大変申し訳なく、やるせない気持ちでいっぱいでした。ただ、この2021年の遭難事故で、会員の奥様へ電話を差し上げた時のことを、私は今でも忘れません。
「私は一体、これから、どうしたらよいのでしょうか?」「夫の会社にはなんと連絡をすべきなのか。」と事故発生から何日も満足な睡眠をとれず、不安と悲しみとで張り裂けそうな心を抑えて、幼い子供たちの為に、母親として気持ちを振り絞って言葉を発しているのが伝わります。
その時です。その奥様の背後から乳飲み子の泣き声と、5歳くらいのお子さまが、とにかくハイテンションで騒いでいる声が聞こえました。きっと、数日間、お母さんが不安で泣いている姿を見ていたお子さんも何か感じ取っているのでしょう。お母さんを励まそうとしたのかも知れません。
電話を切って、しばらく私は声が出せずにいました。そして、ようやく傍にいた社員に向かって
「民間ヘリの捜索が終わった後も、最後まで会員とご家族に寄り添っていけるように、ココヘリの仕組みを変えられないのかな?」
と独り言のように呟いたのを覚えています。

オフィスには、会員ご本人やご遺族からいただいた感謝のお手紙を飾らせていただいています。私にとってどんな賞状やトロフィーよりも大切な宝物です。

第十章

jRO M&A秘話

2022年7月、ココヘリを運営するAUTHENTIC JAPAN株式会社はjRO(日本山岳救助機構合同会社)のM&Aを発表しました。
当時のココヘリ会員数は4万人でしたが、jROはその倍以上=10万人の会員を擁する業界最大規模のサービスでした。ということで、歴史・規模・信頼、あらゆる面で「jROがココヘリを買収した。」と考えるのが普通で、実際にニュースを聞いた多くの方がそう思っていたそうです。これも本当の話ですが、私がM&Aの相談を差し上げた時、jROの代表だった若村氏は開口一番、「え?久我さん、それ逆でしょう。」とおっしゃいました。
それもそのはず。2014年に「ヒトココ」発信機を発売した私に、登山界で最初に電話をくれたのが若村氏でした。その後jRO会員向けに「ヤマモリ」と命名して発信機を販売してくれていました。そして月末にお金に困った私が若村氏に電話をかけると、jROは100台単位の発注を入れてくれ、その翌日には代金を支払ってくれたのは一度や二度ではありませんでした。

jROが発売した山のお守り「ヤマモリ」を紹介する漫画

その後「ココヘリ」がスタートし、会員数が増えて事業が成長したとは言え、なぜ「立場があべこべのM&A」が成立したのか。それには2つの背景があります。
1つ目。これは言うまでもありません。jROとひとつになれば、「民間ヘリでの捜索終了後も、最後までご家族に寄り添う仕組みができる」と考えたからです。(※第九章の出来事がきっかけ)
2つ目。2020年に発生したコロナ禍で登山界も大きなダメージを受けました。キャンプやアウトドアが大流行するのを横目に、山小屋など「密」な行動が避けられない登山は基本的に「ステイホーム」を求められる形に。当然、ココヘリも新規入会者が失速したわけですが、これは流石にどうしようもない事として受け止めていました。
しかし、その時私はふと思ったのでした。「コロナ禍で客が急減し、飲食業はじめどの業界もみな苦労している。だが、もしかしたら少子高齢化の日本の未来をコロナ禍が前倒しで見せているだけなのでは。だとしたら、あらゆる業界で生き残りが激化する。圧倒的No.1のサービスしか生き残れない時代が来る。」という強烈な危機感を抱いた私は、居ても立ってもいられずに若村氏へ電話をかけたのでした。かつて「ヤマモリ」の100台発注をお願いしていた時のように。
私は一所懸命に若村氏に思いを伝えました。「このままではココヘリも、そして申し訳ないですがjROも消滅してしまいます。もしかしたら他の安全登山サービスも。でも今ココヘリとjROがひとつになれば、突出したサービスが誕生します。近い将来、人口が減っても、登山者を支える仕組みを世の中に残すことができます。」
私の話を最後までじっと聴いていた若村氏は、やがてハッキリとした口調で
「わかりました。お話を検討させていただきます。」
と私の目を見て言ってくれました。
ココヘリとjROが一つになる道筋が決定した瞬間でした。

第十一章

ココヘリは「山のJAF」へ

2022年7月のM&A発表時、ココヘリの「捜索サービス」にjROの「捜索・救助費用補てんサービス」を追加付与しました。
その後、2023年6月に、現行制度=山のJAFというべき
「役務提供型の捜索救助サービス」に進化しました。
何がどう変化していったのか。そして何故その決断をしたか。背景を含め、順を追ってご説明したいと思います。

第1フェーズ:~2022年6月まで

■ サービス内容
=ココヘリの探す(役務提供)
+三井住友海上の個人賠償と物品補償
■ 年会費=5,000円
図にすると、こんな感じになります。

〇利点:電波で迅速かつ効率的に「さがす」ことにより、捜索開始から発見・救助までの時間を大幅に短縮。 捜索の長期化そのものが回避できるため、通常、山岳保険などで備える「捜索・救助費用がかさむリスク」を限りなく最小化することができます。
×弱点:それでも、会員証の携行忘れなどの原因で、捜索が長期化する場合も(第九章参照)。そのケースに備えたい登山者は、山岳保険に加入したり、jROの会員になることで捜索・救助費用の補てんをする必要がありました。
その結果、ココヘリに加えて、jROの年会費を支払うため、合計7,000円の年会費が必要になるばかりか、それぞれの更新決済手続きが発生する手間もありました。
もし、年会費が5,000円の山岳保険に加入すれば、合計1万円です。「ココヘリで解決できないケースへの備え」としては少し勿体ないと個人的には感じていました。

ココヘリとjROに加入した場合の年会費

第2フェーズ:2022年6月~2023年5月まで

■ サービス内容
=ココヘリの探す(役務提供)
+jROの捜索・救助費用補てん
+三井住友海上の個人賠償と物品補償
■ 年会費=5,000円
図にすると、こんな感じになります。

〇利点: まず何より、この第2フェーズをもって、jROの費用補てんの上限550万円まで「最後まで会員と家族に寄り添う」事ができるようになりました。「3フライトで終わり」は終わりにできました。万歳!
さらにjROの年会費2,000円が加算されること無く、ココヘリの年会費5,000円のまま据え置き!社内でも賛否両論でした。「なぜ値上げしないのか?」と。確かにクレイジーですね。
しかし、私が値上げをしなかった理由は2つありました。①会員証携行忘れなどが無い限り、ほとんどのケースはココヘリの電波で早期解決してきた実績があったため、jROが提供する上限550万円の費用補てんは殆ど出番が無く、その経営的負荷は限りなく小さいことが事前に分かっていたからです。
②値上げをする代わりに「圧倒的サービスを低価格で」提供することにより、発信機を持って登山をするココヘリ会員を更に増やすことができると考えました。実際、2022年6月時点では、ココヘリの会員数(4万人)+jRO会員(ココヘリ重複を除くと8万人)=合計12万人だったグループ会員数が41%増加し、2024年6月時点で17万人を突破しました。
×弱点:jROや山岳保険の仕組みは、費用補てんです。その構造的な特徴から、どうしても会員・ご家族による「先払い」が必要となります。実際、先払い金を親戚などから借りて集めることができず、民間捜索組織への依頼に苦労されているご家族もいらっしゃいました。

jRO費用補てんの流れ

第3フェーズ:2023年7月~現行制度「山のJAF」へ。

jROの費用補てんを廃止し、ココヘリの役務提供の上限を550万円とすることで、会員と家族の「先払い」が発生しない制度に。ロードサービスのJAFのような「全部おまかせ」のサービスへ進化。

■ サービス内容
=ココヘリが探す・救助する(役務提供の上限=550万円)
+jROの捜索・救助費用補てん
+三井住友海上の個人賠償と物品補償
■ 年会費=5,000円

〇利点: 完全役務提供型=「山のJAF」なので、ご家族はコールセンターへ相談さえすれば「全部おまかせ」ができるように。また、この時から「民間組織による2次救助」の手配も可能になりました。この救助手配は、現時点では特殊なプロ集団による地上救助を指しますが、2026年度中には民間ヘリによる救助活動の実施を計画しています。

現行制度は、会員・ご家族の「先払い」が発生しない制度。上限550万円まで、ココヘリが捜索・救助を手配。

×弱点: 意気揚々とスタートした現行制度ですが、実際に事故対応を進めるうちに、遭難対策協議会の出動費用については、会員・ご家族による費用の自己負担になってしまうことが判明しました。

2024年6月28日に会員へ向けて発信した文書より抜粋

ケース①はJAFの例でご理解いただけるかと思います。
ケース②は、正直言って可能ならば、ココヘリから遭難対策協議会に捜索・救助を依頼・手配をかけ、その費用をお支払いしたいと願っています。費用も高額ではありませんので、本音は支払いたいです。
しかし、遭難対策協議会への出動依頼ができるのは警察のみ。すなわち、ココヘリの役務提供の範疇外となります。そしてココヘリは保険ではないため、遭対協議会の費用を支払った会員やご家族に対し、その費用の補てんはできないのです。
2024年7月時点のココヘリ制度の現在地はここです。うーん、もう一息!もう少しで会員と家族にとって最高の仕組みになりそうなに。非常にもどかしい気持ちです。
しかし、ここまで読み進めてくださった方は、既にお分かりかと思います。そう、ココヘリは、あきらめの悪い会社です。私たちはきっと何か打開策を見つけます。ココヘリの未来にご期待ください。
なお、ココヘリの現行制度については、利点・弱点を含めて、ヤマレコの的場代表がとてもフラットに分かりやすく解説して下さっています。ぜひ一度、ご覧ください。(他力本願)
ココヘリのまとめ以外にも、遭難しないための有益な情報が充実しています。チャンネル登録をお忘れなく。

【勝手に解説シリーズ2024】ココヘリ&ジロー徹底解説!

終わりに

以上、いったん大まかなココヘリの歴史と秘密から現在地について書いてみました。普段文章を書く機会が少なく、読みづらい部分もあったかと思います。でも、どうしても皆さんにお伝えしたかった。稚拙な文章でも、自分の言葉で語りかけよう。
今後も、今回書ききれなかった事を少しずつ書き足していきたいと思います。まだまだ、私たちのサービスは進化を続けます。短期的に見れば失敗もあるでしょう。ただ、私と会社が目指す目標・ゴールは明確です。どんな課題があっても必ず解決の手段を見つけていきます。
今後ともココヘリとジローをよろしくお願い申し上げます。

2024年9月1日
AUTHENTIC JAPAN株式会社
代表取締役 久我一総